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「猫の筆」事件以降、部屋が狭くなったなぁと慧さまは思っている。 ノッカーが悲鳴を上げる。 PR |
その場所はファンブルグの街でもかなりわかりづらい一画にある。
口頭で説明するのは難しいし、来た事のある人に連れてきてもらうにしても、 だいたい知っている人が少ない。 運よく建物にたどり着いたとしてもドアの位置が陰に隠れている上、油切れで 渋くなっているため動かしてみて開かないと諦めてしまう人もいるのではない だろうか・・・。 つまるところ、斎(いつき)は訪れる人が少ない理由をそんな風にとらえている。 決して、先代に比べて自分達が頼りないのではないかという根も葉もない噂が、 依頼人の足を留めているわけではないと・・・。 斎は、ふんふん♪と聞き覚えのある曲を口ずさみながら、淹れたてのお茶を お盆に載せ、部屋の片隅で大きな斧刃を研いでいる男に声をかけた。 「左之助さん、お茶がはいりました」 斎は微笑みながらお茶を置くと、 「・・・かたじけない」 左之助と呼ばれた男は顔も上げずに礼だけ言って黙々と作業を続けている。 左之助は使った後はもちろん、使用していなくても暇さえあれば武器の 手入れを行っている。 丁寧に汚れを洗い落とし乾燥させ、刃物用の油などを塗布してから乾燥 した場所で保管する。時間のある時は、ヤスリを使って丁寧に仕上げる。 斧に限らず刃物は刃こぼれがあると切れ味が落ちる。小さな刃こぼれひとつ 見落とすまいと仔細に斧刃を見ていたが、満足のいく出来になったのか、 左之助はふっと息をはいて、斧を置くとようやくお茶に手を伸ばした。 斎は軽く会釈をして離れた。 ★ 「お姉さま、お茶が入りましたよ」 斎は階段に向かって声をかけた。 「いまいく~~」 という声とほとんど同時に、しゅたっと斎の傍らに降り立った少女。 五尺にわずかに足りない小柄な斎よりもさらに小柄で、後ろに寄せた 三つ編みを左右に垂らした風貌はローティーンにしか見えない。 はやての衣に迅雷の脚絆、髪飾りには珠のかんざしという「くのいち」 スタイル。 彼女がヒヨコ神社を束ねるリーダ、慧さま、その人である。 もう慣れっこになってしまったから驚くことはないが、ここに来た当時は 驚いた拍子に派手にお茶をぶちまけてしまったこともある。 お盆から自分の茶碗を取って階段に腰掛けると、慧さまは左之助に 声をかけた。 「左の字~、終わったら私の弓の手入れもお願い」 「断る」 「そんなこと言わないで、ちゃちゃっとやってよ、ねっ、ねっ?」 「私は元々飛び道具は使わぬゆえ、弓の手入れの方法は知らぬ。 ましてどんな武器であろうとちゃちゃっとする方法などは知らぬ」 「ちぇっ、けち・・・」 慧さまは、ぶっとふくれっつらをして、まだなにか言おうとしたとき、 めったに鳴ることのないノッカーが鳴った。 |
ここではないどこか――
ファーレン王国、その首都ファンブルグ。
王宮、リセリア城の地下では、 儀式が、 「異世界よりの客人(まろうど)に、世界を救う者あり」 伝説に語られる勇者の再来を、心待ちにする王族達。 すべてはこの世界に迫りつつある、大災厄の種をほふるため……。 突如、訳もわからず異世界に招かれてしまったあなたは、「 として召喚されたにも関わらず試練に合格できず、 放逐されてしまう。 これは、落ちこぼれの元・勇者候補達が、 「勇者」じゃない僕たちにも、できること。 それは、手と手を、つなぐこと。 |