(今日から12月・・・)
みいは壁にかかったカレンダーを一枚めくって呟いた。
ふと視線をテーブルに置いた写真立てに移す。
お正月にみんなで写した写真の真ん中にはまだ少女と言えるみいの姿があった。
(あれから2年も立つんですねぇ)
あのクリスマスの大活劇の後、お正月にはヒヨコ神社でどんちゃん騒ぎをして・・・。
それからしばらくして-すべてが片付いた後に-みいは故郷のハウトに帰った。
そしてハウト密林管理官に志願し採用された。
ハウトの密林を訪れる旅行者の安全を守るのと同時に、密猟者たちから自然を守るのが仕事だ。
仕事の合間には以前から得意だった弓の腕を磨いていて、管理官のリーダーにもその腕は一目置かれている。
そんなことをを思い出しながら写真を眺めてぼうっとしていると、
「みひーゃん、いるかね」
入口にかけた簾の陰からのぞいたのは近所に住んでいる古老のカメおばーだった。
「ぁ、はーめー、はいさい(おばあさん、こんにちは)。どうしたんですか?珍しいですね」
「じちぇー、みひーゃんんかい頼みがあげーてきのみぐさぁ~のさい。聞いてくりゆんかいみ?(実は、みいちゃんに頼みがあって来たんだわ、聞いてくれるかい?)」
「もちろんですよ。どうぞ上がって下さい」
「にふぇーでーびる(ありがとうね)」
「で、どうしたんですか」
「うちぬ孫イナグが、3日メーからけーってからこねーらんのさい。だぁでぬーがらあいびーたんんあんにかしわんかいなってから、みひーゃんんかい迎えんかい行ってからもらえねーらんかとうむってからね(うちの孫娘が、3日前から帰ってこないのさ。それで心配になってねぇ。みいいちゃんに迎えに行ってもらえないかと思ってねぇ)」
「それは心配ですね、分かりました。私が迎えに行ってきますよ。お孫さんはどこに行ったんですか?」
「だぁがね、ファンブルグから来ちゃうきゃくちゅぬ案内でハワーク遺跡んかい行っのみぐさぁ~のさい。(それがね、ファンブルグから来た客人の案内でハワーク遺跡に行ったのよ)」
「ハワーク遺跡ですか・・・・・・、うーん、困りましたねぇ、あそこに入るには首長の許可がないと・・・」
「なんくるないさー!!」
その時、簾の向こうから場違いに弾んだ声がした。
「えっ?」
振り向くとそこにいたのは満面に笑みを浮かべた少年だった。
「やあ、みい、久しぶりっ!」
「キラ!」
キラはみいと同じ年だが、どちらかと言えば姉弟みたいに過ごしてきた。
幼少時代から活発だったみいによちよちとついていく幼いキラの姿が見られたものだ。
幼馴染は片手にもった書類をひらひらさせて、
「心配しなくてもボクが首長の許可をもらってきたから、ほらねっ」
少年はカメおばーに向き直ると優しい笑顔を浮かべて、
「はーめー、わったーんかい任せてくぃみそーれ。きっとお孫みーちや無くとぅんかい連れてけーってからくるから、しわさんけー待ってからてシチャさいね(おばあちゃん、ボクたちに任せて。きっとお孫さんは無事に連れて帰ってくるから、心配しないで待っててね。)」
「にーに、にふぇーでーびる(おにいちゃん、ありがとうね)」
カメおばーは、両手でみいとキラの手を交互に握ると何度も頭を下げながら部屋を出て行った。
☆
二人は遺跡の中を松明の灯りを頼りに進んでいく。
「みいとこうして出かけるのはホント久しぶりだよねー」
キラは心底楽しんでいることを隠そうともしない。
今にも口笛を吹きだしそうだ。
みいは苦笑しながら、
「お願いだから油断しないで下さいね、遠足じゃないんですからね」
「はい、はーい」
相変わらず緊張感はかけらもない。
「危険だと思ったらすぐに逃げて下さいね。キラは戦闘はしないんですからね」
「うーん、でもみいを置いてはいけないから・・・・・」
「私は大丈夫です」
「ボクも役に立つと思うけどなぁ・・・・・・」
みいは笑みを浮かべて、
「あまり期待してないけど、何かあったら助けて下さいね」
「ちぇっ、信用してないんだなぁ」
「しっ、そろそろ祭壇の間です」
「・・・・・・うん」
二人はかがんで入口から祭壇の間の様子を伺った。
どうやら中に人の気配がする。
みいは声をかけようとするキラを右手で制止した。
そしてさらに様子を伺う。
年齢不詳のスレンダーな女と二人の中年男。護衛役は見当たらない。
(変ですね・・・・・・)
しばらく挙動を観ていたが、調査隊というよりこそ泥のように見える。
みいは思い切って声をかけてみることにした。
立ち上がって、
「そこで何をしてるんですか?」
声をかけられた三人はビクッとして振り返った。
「み、見ての通り、遺跡の調査をしているのよ」
オドオドと女が答えると、キラは訝しげな表情を浮かべて、
「へえぇ・・・護衛の二人もいないのに?首長が言わなかった?二人がいないところで勝手なことをしてはならないと・・・・・・。あの二人は護衛だけではなく監視の役割も持ってるんだよ?」
「そうだったの・・・・・・。でももう手遅れのようね」
「!?」
「なんですって?」
「二人とも、もう護衛も監視もできませんよ」
鼻の大きな男がにやにや笑いながら言うと、
「仕事熱心ないい子たちだったまんねん」
ガニ股のふとっちょも応じた。
「あなたたち、二人をどうしたんですかっ!」
声を震わせてみいが尋ねる。
が、大人たちは誰も答えない。
「・・・・・・あなたたち、調査隊ではありませんね?なんだか悪い匂いがしますよ?」
「おやおや、ばれてしまってはしょうがないねぇ・・・・・・。いかにも、そうさ。私たちは天下の大泥棒さね。でもねぇ、それを知ったってことはどういうことかわかるかえ?」
女は酷薄な笑みを浮かべ凄んだ。
「こわっぱども、そんなにアイツらの後を追いたいかい?」
「そんなセリフを吐くから年がばれるんですよ・・・・・・」
「せやせや」
「うるさーい、おまえたち!つべこべいってないでやっておしまいッ!!」
女は鞭を振った。
「アイアイサーっ」
男たちは、二人に襲いかかった。
「キラ!逃げてッ!」
そう叫んだみいは鼻の繰り出す剣の一撃をかわして、矢をつがえると、太っちょの手を狙い討って拳銃を弾き飛ばす。
素早く二の矢をつがえると、鼻の方に向き直りひゅっと放った。
剣を飛ばされた男は手を押さえた。
そして三本目の矢をつがえて女首領を狙おうとした時、
「そこまでだよっ!あっちを見て御覧ン!」
腰に手をあてた女は、持っていた鞭で祭壇の上を指した。
そこには、少女が二人背中合わせに後ろ手に縛られている。
二人とぐったりして身じろぎ一つしない。
「おとなしくしないと、あの娘たちと永遠にさよならすることになるんだよ。・・・・・・さぁ、その物騒なものを捨てるンだよッ!」
「卑怯なっ!」
怒りに燃える瞳で睨みつける。
「ほらっ、早くしなっ!」
つがえていた矢を外した時、
「くらえっ!トゥワールブロウ!!」
突風が巻き起こり、盗賊たちを吹き飛ばした。
「きゃぁぁあああ」
「あわわわ」
「うぉぉぉお」
「キラっ!」
「いまだよ!」
「うん、連射っ」
みいの放った矢は3人を祭壇の壁に縫い付けた。
★
縛られていた二人はキラの蘇生術で息を吹き返し、遅れてやってきたシルトの兵士たちによって治療院に運ばれた。
「キラ・・・・・・、ありがとう。それにごめんなさい。わたしはあなたがビショップだって知らなかった・・・。それであんな失礼なことを・・・・・・」
「もういいよ。ボクはみいの役に立てて嬉しかったし」
「キラ・・・・・・」
「よかったら、また仕事を手伝わせて欲しいな」
「・・・うん」
みいにはちょっぴり逞しくなった幼馴染が眩しく見えた。
[3回]
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