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【2024/11/22 23:24 】 |
ep.9 おちけん! -前篇-
ファンブルグ某所。
研究所によくあるような一室。
机、本棚、乱雑に積まれた本とレポートとおぼしき書類の山・・・。

部屋の中には4人の男女が見える。

「・・・それで『サンプル』の収集は進んでいるのか?」

「はっ、集まりつつはありますが、研究を継続するにはまだまだ足りませぬ」

「それらしい噂を収集して、あたってはいるものの、ほとんどがガセネタという有様で・・・」


「それとなく他の研究機関にも調査協力の依頼を流しておりますが、どこからも回答はありません」


「『サンプル』が集まらなくては『特異体』の培養は・・・」

「空蝉、その言葉は使うなといったはずだが・・・?」

「はっ、も、申し訳ありません・・・」

「とにかく、『サンプル』が少なすぎて、このままでは実用化のめどは厳しいかと・・・」

「よし・・・第二段階にはいる・・・」

「?」

「!?」

「捜索の対象を、戦闘職から非戦闘職、つまり生産職や特別職にまで拡大する・・・」

「「「!」」」

「野分、浮舟、空蝉!わかったか、今後は、民間人でも構わん、非凡なる才能の持ち主を探しだし、験体とするのだ」

「「「ははっ」」」
3人は頭を下げた。


「すべては我らの主のために・・・」

「「「すべては我らの主のために・・・」」」

部屋の中に、声が反響した。





「ぐわぁ・・・また外れた!」
 
「お社」の屋根に留まってうつらうつらしていたヒヨコが慌てて転がり落ちるほどの大声を出して、サータルスが悔しがる。
 
卿のそうした行動に耐性のついてきた面々は、ちらっと眺めただけで、何もなかったかのようにそれぞれの仕事に戻っている。
 
台所で洗い物をしていた斎(いつき)は、皿を下げにきたマミコに、

「今日はどうしたんですか?」
と尋ねた。

「あぁ、あれですかぁ・・・」
マミコは洗い桶に皿を漬けながら、

「抽選に外れたんだそうですぅ」

「抽選?」

「そうですぅ・・・、有名な漫才コンビの『ペランペラン』が久しぶりに南地区の劇場でライブをするんですぅ、入場券は抽選でぇ、ダーリンも何口か申し込んだみたいですがぁ、全部外れだったみたいですねぇ・・・」
居間の方を振り返りながら、言った。

「へぇ・・・。サータルスさんが、お笑いのライブに行きたいなんて・・・そういう趣味があるとは知りませんでした」

「う~ん、多分、そんなに興味があるわけではないと思いますよぉ」

「えっ、でも、何口も申し込んだり、外れたのをあんなり悔しがったり・・・」

「きっと、チケットをネタに、女の子を誘うつもりだったんですよぉ」

「ええっ!!」
斎はさらっと言ってのけたマミコをまじまじとみつめてしまった。

「もし、ダーリンが本当に行きたいんだったらぁ・・・」
マミコはエプロンから何かを取り出した。

「ペアのチケットはあるんですけどねぇ」
ニコッと笑った。

その笑みを見て、同じ女性としてそれ以上深入りしない方がいいと察した斎は、

「でも、よく当たりましたね?」
さりげなく話題を変えた。

「うん、フィーアさんにお願いして『祝福』をしてもらったんです」
なんでも「祝福」には幸運度を微増させる効果があるらしい。

(そうなんだ・・・わたしも今度、福引きの時にでもお願いしてみようかしら・・・)
そう思う斎であった。
 

コツコツ

「お社」の玄関のノッカーが控え目に叩かれた。

「あらっ、お客様ですね」

「は~い」
たまたま玄関の近くにいた、慧さまが返事をしてドアを開けると、そこには少年がひとりうなだれて立っていた。

「何か、用?」
少年は、意を決したように顔を上げると言った。

「お願いです、僕の姉ちゃん、いや、姉を探してください」

部屋の中の空気が変わった。

「まあ、こっちに入って・・・」
慧さまに勧められるまま部屋の中央の椅子に腰掛けた少年は、カッチィと名乗った。

カッチィ少年は斎のいれたお茶を飲みながら、ぽつぽつと話し始めた。

「姉の名前はリッツといいます。姉はお笑いが大好きで『ペランペラン』という漫才コンビの大ファンで、ファンクラブにも入っていました。」

「ええっ、あの有名なペランペランの?」

「はいっ」
それまで、あまり興味なさげに聞いていたサータルスであったが、いきなりカッチィ少年の手を握って、

「き、きみっ、必ず探し出すから、成功の暁には、その、なんだ・・・チケットなんか手に入れてもらえると嬉しいのだが・・・」

「なに、浅ましいこと言ってんの」
慧さまは手にしたスリッパで卿の頭をパコンと叩いた。

カッチィ少年は、小柄な女の子が長身の偉丈夫に突っ込みを入れるところを興味深げにみていたが、思い出したように、

「最近では、観るだけじゃなくて自分達もお笑いをやるんだと言って、友達とお笑いのサークルに参加して、練習してたんですが・・・」

「へぇ・・・そうなんだ」

「それが、一昨日の夕方、練習に行ってくるといって出かけたまま、帰ってこないんです」

「どこでいなくなったのかな?」

「一緒に活動をしていた友達にも聞いてみたんですが、普通に練習を終えていつもと同じ場所で別れたと・・・」

「練習にはちゃんと出てたんだね・・・。その日、何か変わったことはなかった?」

「いえっ、出るまでは上機嫌で『ペランペラン』の凱旋ライブのことを話していたし、出かけるときもいつもと変わらず、『晩御飯残しておいて』といって出て行きました」

「何かあったとしたらサークルに行ってからってことね」

「・・・うむ」
左之助も頷いた。

「そっか・・・家の方になにか怪しげな連絡とかなかった?例えば身代金の要求みたいな・・・」

「うん、特にありません・・・」

「手がかりはなしかぁ・・・」

「お姉さま、とりあえず、リッツさんのその日の行動を追っかけてみませんか?」
斎が提案すると、

「そうだねっ、リッツさんのお友達、サークル関係者を手分けしてあたってみよう」

「はいっ、そのサークルと姉の友達の連絡先を書いておきました」
カッチィ少年がポケットから紙を取り出して、慧さまに渡した。

「おっ、手回しがいいわね、何か分かったら連絡するから、家で待っていて」
渡された紙に視線を落としながら、

「左の字はマミコを連れてサークルに行ってみて・・・、私といっちゃんはリッツさんの友達に会ってみる・・・」

「よろしくお願いします」
少年はあらためて深々と頭を下げた。

「あっ、きみ・・・もし、ライブの日までに姉上が戻らなかったら、私が、チケットを・・・」
カッチィ少年と口にした本人以外の部屋にいた全員が、スリッパを構えた。



「尋ね人かい?」

慧さまと斎はカッチィから預かった交友リストを手に、友人をあたっていたが、行方を知っているものは誰もいなかった。
リストに書かれた、次の友人のいる場所に向かおうと、東地区の小路に入ったところで、二人は呼び止められたのだ。

振り向いたところで、

「そこのお嬢さんたち・・・あんた達も人を探してるのかい?」

フードのついたローブをまとっているので顔を見ることはできない。
しゃがれた声だけでは、男なのか女なのか、若いのか年をとっているのか、はっきりは分からなかった。

「あんた達も・・・って」
慧さまと斎は顔を見合わせた。

「おや、違ったかな・・・失敬、失敬・・・」
ローブを翻して行きすぎようとするところに追いすがって、

「どういうこと?」
慧さまが尋ねた?

「なぁに、最近、人が消える話をよく耳にするのでね・・・」

「知らないわ・・・」

「ほほう、『ヒヨコ神社の慧さま』が知らないとは・・・」

「なにっ!」
いきなり自分の名前を出されていきり立った慧さまを押し留めるようにして、

「・・・何をご存知なんですか?」
斎の口調は穏やかだが、杖は硬く握り締められている。

「言ったろう?人が消えているんだよ・・」
ローブの人物は、繰り返した。

「最初は、傭兵たちの間で流れてた噂だ・・・。ある日、ふっと姿を消す奴がいる・・・。だが、こういう稼業をしていれば、日常茶飯事の話だ・・・。不運な事故があれば・・・な」
わかるだろう?と言う感じで言葉を切った。

「ところが、最近では非戦闘職にまで噂が広がっている・・・防具職人だったり、鑑定士だったり・・・」
慧さまは眉を上げた。

「あんたも人探しをしている・・・って訳?」

「いやあ・・・オレは、消えた人を追っかけてるわけじゃないさ・・・」

「では・・・?」

「オレが追っかけてるのは、消してる方の奴らだよ・・・」

「・・・そういうこと・・・」
慧さまは、ふっと笑った。

「わかったわ、手を組みましょう。私たちは、消えた人たちの行方を捜す・・・。あんたは消してる方の情報を集める・・・」

「ものわかりがよくて助かるよ・・・」
フードを上げると、現れたのは長いブロンドの髪を後頭部でシニヨンにした女性だった。年は20代前半くらいか・・・。ちょっと上がった目には普通の傭兵とは違った輝きがある。

「オレのことは、スールとでも呼んでくれ」

(姉妹(スール)?)斎は首をかしげた。

「オッケー、スール・・・じゃあ、さっそくなんだけど、いなくなった子の情報を集めてるの、一緒に来て・・・」

「・・・」
無言でフードを戻すと、歩き出した二人の後、数歩遅れてついてくる。

「お姉さま、信用して大丈夫なんですか?」斎は不安げに慧さまの耳元で囁いた。

「多分ね・・・」

「そ、そんなぁ・・・」

「100%信用していいか分からないけど、彼女のおかげでステージが変わったのは間違いないよ・・・」

「そうですけど・・・罠かもしれないじゃないですか・・・」

「罠だとしても、私達に罠を仕掛けようとする連中がいるってことでしょ?そいつらが何者だかわかるかもしれない・・・」
慧さまはちらっと後ろを見て、

「大丈夫よ、なんとかなるでしょう・・・敵だとしても味方だとしても・・・ねっ」

やがて住宅街でお目当ての家を探し当てたものの、出てきた友人は何も情報を持っていなかった。二人は、スールを伴って左之助たちとの待ち合わせ場所に向かった。



わずか10畳ほどの部屋に数人の男女が閉じ込められていた。
床と天井、そして3方の壁は石造りで、どのくらいの厚さがあるのか分からない。残る一方の壁は鉄格子がはまっており、唯一のドアには頑丈そうな鍵がかかっている。

ここに連れて来られた時には、鉄格子を揺すって大声で叫んでもみたが、もうそんな気力もなくなっていた。

カツカツカツ・・・

足音が響いてきた。

(ああ・・・またか・・・)

足音が来るたびに、一人が連れ出される。しかし連れ出された人は二度とは戻ってこない・・・。
リッツにも、ここのルールが分かってきた。


「あなたには『特異体』の兆候が見られるわ・・・」
ここに連れ込まれたとき、白衣を着た女性が、自分に向かってそう言った。

「・・・特異体?」
それまで泣きじゃくっていたリッツであったが、聞きなれない言葉に思わず反応すると、

「あなたの言葉は聴いたものに強く影響を与えるようね・・・その能力を使えば・・・ククク」
白衣の女は笑みを浮かべた。

それ以上は気を失ったため、聞くことはできなかったが、今なら分かる・・・というか、想像できる。

リッツは、
「今度も自分じゃありませんように・・・」

それだけを一心不乱に祈っていた。






後篇に続く




拍手[3回]

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【2010/05/22 11:17 】 | メインストーリー | 有り難いご意見(1) | トラックバック()
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有り難いご意見
樽卿が
なかなかいいポジションになってきたb
いいことですw

マミコさんもしたたかになってきたしねぇw

ちょっと気になったのがお社の上のヒヨコ。
どんな奴だろう?
【2010/05/22 11:51】| | 樽卿 #56af5bf09d [ 編集 ]
Re:樽卿が
もう登場させない訳には行かなくなってきましたからねぇ・・・。

う~~ん、あれを読んで「マミコがしたたか」って思ってるうちは、まだまだね・・・w
嘘だと思ったら、他の女性陣にも聞いてご覧なさいなw
【2010/05/24 20:48】


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