【これまでのあらすじ】
元貴族のサータルス卿からの依頼で、視線の主を探っていたヒヨコ神社の面々。
卿のあとを付回すピンク服の少女の存在に気がついたものの、卿の妹エクセリアに寄生した魔物シャドウとの戦闘中に少女を見失ってしまった。
一夜明けて、ヒヨコ神社に訪ねてきたのは・・・。
「ちょっと!そこを動くんじゃないよっ!」
慧さまは、慌てて外に飛び出すと少女の腕をとって家の中に引きずり込んだ。
「そんなに慌てなくても、逃げも隠れもしませんよぉ」
コロコロと笑うのは、ピンクのメイド服を着た少女。サータルス邸から姿を消した少女であった。
「はんっ!そんなの信用できないわねっ、あんた、昨日も隙をみて逃げ出したじゃない!」
慧さまが鼻白む。
「お姉さま、どうなさいました?」
「・・・」
それぞれの寝室から出てきた二人に、少女を睨みつけたまま慧さまが、
「こいつが卿のあとを尾けていた犯人よっ!昨日、ドサクサにまぎれていなくなってたけど、もう逃げられないと観念して出頭してきたわけねっ・・・」
「まぁ・・・」
「ふ~む」
「ちょっと違うかなぁ~」
「うるさ~~いっ!キリキリ吐かせてやるから覚悟しなさい」
「ま、まぁ・・・お姉さまも落ち着いて・・・。とにかく、コーヒーでも飲みながらゆっくり話を聞かせてもらいましょう。」
「あ、私、コーヒー飲めないのでぇ、お茶にしてくれませんかぁ?」
「くうぅぅぅ・・・」
あっ、お姉さま、切れそう・・・
斎はワナワナと震える慧さまを見ながらため息をついた。
今日は朝からとんでもない一日になりそうだ・・・
「はぁ~、美味しいですねぇ~、この紅茶・・・」
テーブルに座って、両手で抱えていたカップを眺めながら少女はため息をついた。
「ありがとうございます、もう一杯いかがですか?」
斎は喜んで、お茶を勧める。
慧さまはイライラとテーブルを指で叩く。
「で・・・?あんたはいったい何者なの?」
「はい~、私の名前はマミコといいます~」
「マミコ・・・」
「マミコさん、こちらが慧さま、あちらに座ってナイフを研いでいるのは左之助様、わたしは斎と申します」
「よろしくです~」
マミコと名乗る少女はペコリと頭を下げた。
「で、そのマミコさんがなぜあのシキ・・・もとい、サータルスを尾けまわしてるのかしら?」
「はぁ、あの方、サータルス様というんですね~~」
「な、なに・・・あんた、名前も知らない相手をストーキングしてたの??」
「・・・恥ずかしながら」
ぽっと頬を染めるマミコ。
「いや、そこ、赤くなるところ、違うから・・・」
「だって、一度もお話したことありませんの~~」
マミコが語り始めた。
★
「一ヶ月くらい前にぃ、とある泉で水浴びをしていた時に、足を滑らせて溺れてしまったんですよぉ~。そこを通りかかった殿方に助けていただいたのですぅ。」
「それがサータルスだったの?」
「そうじゃないかと思うんですぅ・・・」
「はっきりしないわけ?」
「溺れてパニックになってたしぃ、助けてくれたのが殿方と気づいたら恥ずかしくなってぇ・・・」
「あ~わかります、その場を逃げ出したくなりますよね?」
「いえ~~、メテオストライクでふっとばしてしまいましたぁ・・・てへっ」
てへっ、じゃないから・・・
「一族の掟で、助けてもらったら誠心誠意恩返しをしなくてはいけないのですがぁ、本当にあの方が溺れた私を助けてくれた方なのかわからないのですぅ」
「そんなの本人とっつかまえて聞いてみりゃいいじゃん!」
「なのでぇ、街に来てぇ、あの方を見つけて話しかけたんですけどぉ、返事をしてくれません。私のことが見えていないようでぇ~」
「なんで?」
「・・・どうしてなんでしょうねぇ?」
首をjかしげるマミコ。
「想像ですけど・・・」
斎が解説する。
「吹き飛ばされた時に強いショックを受けたために、それ以降はマミコさんの姿を見ると、自己防衛本能が働いて認識しなくなってしまったのではないでしょうか?」
「ふ~~ん」
「それは困りますぅ」手をバタバタさせながら
「つまり、卿があんたの恩人かどうか知りたいけど、相手の目に入っていないようなので、確認も取れないと・・・で、私達にどうしろと?」
「お願いです。私のことが見えるようにして下さいぃ。」
「見えないんじゃ、しょうがないじゃない・・・」
「しょうがないじゃすまないんですよぉ、私、溺れたときは裸だったわけですからぁ~」
バスケットをごそごそとかき回して、
「一族の掟で、機密を知られた場合には、レベルに応じて対策をとらなきゃいけないんですよぉ」
取り出した手帳をパラパラとめくりながら、
「掟によると、嫁入り前に裸を見られるのは機密レベルSですので、その方と結婚するか見たことを忘れさせなきゃならないんですぅ」
「あいつの依頼もまだ完了したとは言い難いしなぁ・・・」
「お姉さま、大丈夫です。」
「サータルスさんの依頼内容は視線の主を探すこととその理由を知ること。マミコさんのことを報告した後でマミコさんの依頼を受けることは道義的にも全く問題ありませんわ」
「そうだけど・・・」
「お願いしますぅ」
「どうやったら、マミコ・・・さんを認識させられるかわかんないし、仮にそうなったとしてもサータルスがマミコさんを娶るかどうかわかんないじゃない・・・」
「とりあえず、見えるようにさえなれば、どうにかできますよぉ~」
「へ~、どうやって?」
「・・・色仕掛けとか・・・」ポッと頬を染めて恥らうそぶりを見せた。
「「無理っ!」」
慧さまと斎は口を揃えて叫んだ。
★
「ところでさ、秘密を知られたら結婚するか、強制的に忘れさせるとかって言ってたよね?女の子に知られた時はどうするの?」
「ん~~、そうですねぇ・・・、私は女の子も嫌いじゃないですよぉ?」
「あほかぁ~~~~!!」
「まあ、普通は記憶を消去させるのが一般的ですがぁ、それでも駄目な場合はぁ、最後の手段として根本から禍根を断つというかぁ・・・」
嫌な2択ですね・・・。
「参考までに、どうやって記憶を消すのか教えて頂けます?」
斎が尋ねると、
「思い切り殴るとか・・・ですか?」
いや、疑問形で聞かれても・・・。
「ちょっと待って・・・!、私達もあなたの秘密知ったことになるんだよね?どうするつもりなのかな?」
「あ~そうですね・・・気がつきませんでした・・・」
マミコは手をポンと打つと
「機密レベルSの話もしちゃったので、片がついた後にぃ、記憶を抹消するためにハンマーでぇ・・・」
ゴチン!
「痛いですぅ」
マミコは涙目になって恨めしげに見つめた。
「まあいいでしょ、どうせサータルスに報告しなきゃならないし、一気にカタをつけてしまいましょう」
「お、お姉さま、大丈夫ですか?」
「うん、多分だけどこの子を見えるようにする方法もひらめいたしね」
「うわぁ、それは嬉しいですぅ~」
「左の字、悪いけどサータルスを連れてきて」
「うむっ」
左之助とともにサータルスがやってきた。
マミコの顔がぱぁ~~っと輝いたが、相変わらず自分が見えていないことを知って落胆した表情に変わった。
「・・・という訳なのよ」
事情を説明した慧さまは、サータルスの表情を伺った。
「事情はわかったが、姿が見えない以上、結婚することはおろかまともにつき合うこともできないだろう・・・」
「確かにそうね・・・」
ニコッと笑う慧さま。
「つまり、*姿が見えるようになれば*結婚してもいい*と?」
「まあ、可能性はなくはない・・・な」
「わかったわ、斎ちゃん!お願い!」
「わかりました、お姉さま・・・」
斎は頷くと、サータルスの正面に立つと、呪文を唱え始めた。
「マミコはパニックになって、メテオストライクと同時にコンフュを唱えてたのね。衝撃とともに精神的状態異常 魔法をかけられたので、効果が沁み込んでしまったわけね」
「煌(きらめ)きよ、その意を示せ!キュア!」
ミストのような細かい霧が身体を包み、やがて消えさると、サータルスは目を静かに開ける。
彼の眼には、しっかりとピンク色のメイド服を着た少女の姿が映っていた。
「おおっ、見える、確かに・・・」
「ふぅ・・・」息をつく斎。
「やったね」とVサインを出して笑う慧さま。
無言で頷く左之助。
一方マミコは、よろよろとサータルスに近づいていくと、右手を伸ばした。
「私が・・・、見えるんですか?」
サータルスはこくっと頷いた。
「よ、よかった・・・」
目からひとしずくの涙が零れ落ちた。
サータルスは涙で濡れた顔を手で蔽った少女を見て呟いた。
「きみは・・・だれだ?」
「「「「!!」」」」
サータルスの口から信じられない言葉を聞いたマミコは、
「ひどいっ!」
そう叫ぶと、部屋を飛び出そうとして・・・。
スカートのすそを踏んづけて、勢いよく転がった。
ガラガラガラ・・・ドシン!
壁にぶつかって、舞いあがった埃のなかから現れたのは、1匹の子だぬき。
そこに転がったはずのマミコの姿はなかった。
展開についてゆけず唖然としている3人を尻目に、サータルスは目を回した子だぬきを抱き上げると、
「なんだ、あのときの子だぬきはきみだったのか・・・」
ニッコリと微笑んだ。
結局のところ、意識を取り戻したマミコは、優しく、しかしきっぱりと結婚は断られた。
しばらくは落ち込んでいたが、やがて、ペコリとお辞儀をすると部屋を出て行った。
「なんだか可哀そうでしたね・・・」
「あんた、結婚はともかくつき合って上げればよかったじゃん・・・」
慧さまはサータルスの脇腹を肘でつついた。
「私は、未成年、しかもお赤飯もまだの少女とつき合う趣味はないぞ・・・」
憤然と答えるサータルス。
「えええ~~!」
「そ、そんなに若かったんだ・・・」
「!」
「たぬきの年齢ってわかんないものねぇ・・・」
妙なところで感心する慧さまだった。
Ep.3 Fin
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