巫女服に着替えた斎(いつき)は神社の境内を庭箒で掃いていた。
(今夜は忙しくなりそうですね)
小さなお社ではあるが、参拝の客はそれなりに多い。
冷たくなった手にそっと息を吹きかけ空を見上げた。空は抜けるように青かった。
★
姉さんかぶりで脚立にのった左之助は、天井のすすを払っていた。
サポートするのはアインを筆頭とするにゃんこたち。
「さーにゃ、そっち、まだ蜘蛛の巣が残ってるにゃ」
「払」
ツヴァイが指をさす。
「ぐずぐずしてると年越しに間に合わなくなるにゃ・・・」
腕組みするドライ。
「う、うむ・・・」
左之助は、にゃんこたちの指示で手を伸ばすが、バランスを崩してわたわたしてしまう。
「・・・やりの あつかいはうまいのに はたきが ちゅかえないのが しんじられにゃいにゃ」
フィーアが溜息をついた。
★
「たらいま~」
「ふぅ、ただいまです~」
フュンフとみい姉が両手に袋を下げて帰ってきた。
「おかえりなさいぃ」
前掛けで手を拭きながら、マミコが出迎える。
「これで頼まれたものは全部だと思います」
「うん、ねこもいっしょにみたからまちがいにゃいよ・・・」
「お疲れ様ですぅ。暖かいミルクありますから飲んでくださいねぇ」
荷物を台所に運びながら、みい姉はマミコに尋ねた。
「おせち料理の方は大丈夫ですか?」
「うん、もう、ほとんど終わりましたぁ、あとはお重箱に詰めるだけですぅ」
「おてつだいすることがあったらゆってね」
「はーいっ」
マミコはフュンフに頷いた。
★
「やっぱりこれ着るの?」
「新年なんだから、やっぱり和装だろう?」
「着なれているものの方がいいんだけどなぁ」
「だからって、白衣ってわけにはいかないだろう・・・」
手にした着物を見ながらため息をつくエクサリア。
「ぐずぐずしていると置いて行くぞ」
業を煮やしたサータルスが腰を上げかけると、
「紐で縛られるようで好きじゃないのよねぇ・・・」
まだぶつぶつ言いながらも、自室に着替えに戻った。
★
「ヴォルケーノ!」
神馬に跨ったスール・・・いや、ユカリコが呪文を唱える。
最後の1匹が燃え尽きると、他のメンバーが安堵のため息をついた。
「お疲れ様でした・・・」
一行のリーダー格の男がねぎらいの言葉をかける。
「ああ・・・」
ユカリコは言葉少なに頷く。
「これからどちらへ?」
「・・・西の方へでも行ってみようかと思っている」
「そうですか、では、途中のセラルカまでご一緒に・・・」
「ああ・・・」
ユカリコはもう一度頷くと、しっかり杖を握り直した。
★
王立飛び研究所。
「おいっ、ぼけっとしてないで、さっさと片付けろよ」
「はいはい・・・まったく人使いが荒いですね・・・」
「貴様・・・、どの口が、そういうことを言う・・・」
「確かにグラ子さんのおかげで、アインくんやみいさんたちを助けることができましたしね」
「バッチに発信器を仕掛けてあるなら、そう言っておけばいいのに・・・」
「それじゃあ、スリルがないじゃないですか?」
「貴様・・・」
サングラ子は大剣を抜いた。
「そんな理由で、子供を危険な目にあわせるな!!」
研究所に怒声が響いた。
★
「お姉さま、お姉さま・・・準備できましたか?」
階段を上って、部屋の主に声をかける。
「あ~~、斎っちゃん、これさ・・・どうもうまくまとまらなくて・・・」
緋色の袴の紐を持て余している様子に、斎はため息をついた。
「もう・・・、この前も教えたじゃないですか!」
「そんなの、もう忘れたわよ・・・」
「ちゃんと覚えてください!」
袴の紐を縛り直しながら言う。
「はいはい・・・」
「お姉さまは、このヒヨコ神社のリーダーなんですからねっ!」
「・・・わかったわよ」
「さあ、みんなが待ってますよ・・・」
「うん!行こう!」
慧さまは軽やかに階段を飛び降りた。
やがて、ファンブルグの街にも除夜の鐘が響きわたるだろう。
その鐘を鳴らしているのは、あなたかもしれない。
ヒヨコ神社 第一部 完
[4回]
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